【H29改訂版】英コⅠ UNICORN1 文英堂(345) Lesson8 本文和訳
【H29改訂版】英コⅠ UNICORN1 文英堂(345) Lesson8 本文和訳
ここでは教科書の和訳を掲載しています。あなたの勉強時間の短縮に是非お役立て下さい。本文和訳をするのに辞書を引いて調べていた時間を短縮して、ほかの勉強に時間を充てて下さい。勉強の基礎は時間の有効活用にあります。
LESSON 8
Haruki Murakami Abroad
Part 1
この30年間、 私はあるカナダの大学で日本文学と日本映画を教えてきた。
驚いたことに、その間ずっとそうしたテーマに対する学生たちの関心は一貫して高かった。
最初その理由は、1980年代のバブル経済だった。当時人々は「ジャパンアズナンバーワン」
(一流国日本)を話題にし、日本の言語や文化を学ぷことで金持ちになることを夢見る学生もいた。
バブルがはじけると、その夢はアニメやマンガヘの愛情に取って代わられた。
現在の多くの学生はそうしたものと一緒に成長してきたのだ。結果として、日本の文化は彼らにとって少しもなじみの薄いものではなくなっている。おそらく彼らが村上春樹の作品を読んで全く違和感を覚えない理由はそんなところにあるのかもしれない。「(村上を読むと、) 彼が自分に話しかけているような気がする」彼らがしばしば口にする言葉である。
村上春樹は、日本や北アメリカだけでなく、世界中で絶大な人気がある。数年前、私も参加した村上作品の翻訳者たちの集いで、ロシア、韓国、中国、フランスといった国々の翻訳者たちが、それぞれの国における「村上ブーム」について報告した。日本の作家がそれほど多くの地域でそれほど多くの読者を獲得しえたことに私は驚いた。
Part 2
私が読んだ最初の村上作品、『羊をめぐる冒険』(1982)をどれほどおもしろく読んだか、鮮明に覚えている。時間は随分かかったが(そのときには今より頻繁に辞書を使った )、読み終わったときにはひどく残念で、そのときの彼の最新作『世界の終りとハードポイルド・ワンダーランド』(1985)を買いに走り、苦労しながらもそれも読み通した。両方の作品とも、幻想と冒険とロマンスが刺激的に調合されたもので、満ち溢れている『ワンダーランド』というタイトルがまさしく、 ハードボイルド探偵小説と 『不思議の国のアリス』と終末論小説をすべて連想させるではないか。私は、彼の小説の名前のない主人公たちにもひかれた。表面的には、彼らは冷めていて、容易に感情に動かされない。 ほとんど友達もいなければ、家族のことには全然触れられていない。事実、彼らはまったりひとりで時間を過ごすことに満足していて、今日の日本で言う「ヒキコモリ」に少し似ているように思われた。けれども、たとえ彼らの生活が孤独のうちに営まれようと、 情に左右されない硬い殻の下で、彼らは何かと、あるいはだれかと真の、 そして意味のある関係を築きたいと切望していた。言い換えれば、彼らは私の知っている人たちとそれほど違っていなかったのだ。
Part 3
この親近感が村上春樹と先輩の日本作家とを分かつものである。川端康成や三島由紀夫といった先輩作家たちが西欧の読者に愛されたのは、 主としてその異国的な差異によってだった。結局のところ、1世紀以上にわたって、西欧人は日本をゲイシャとサムライの国であると想像したがってきたのだ。しかし村上の読者は違った人種である。彼らの大部分はもちろん彼が日本人であると知っている。だがそれは大して重要ではない。本当に重要なのは、村上が読者の理解できるかたちで、そして何よりも彼らの楽しめるかたちで彼らに話しかけるということである。村上は偉大なストーリーテラーで、その流麗で音楽的な文体によって、流れに乗ったボートのように読者を運んでいく(ボートのように読者を流れに乗せて感動させる)。そのイメージは世界を巻き上げる鳥、奇妙な金色のユニコーン、姿を消す象など、容易に忘れがたく、 しかも彼は常に会話を描き出す名人である。その短編も長編小説も、ジャズやロック、映画や文学といった現代のポップ・カルチャー(大衆文化)を至るところで取り上げる。しかし、彼の文体は一貫してそれと分かる特徴を備えているにしても、彼が作家としてデビューしてからその主人公や主題は常に変化してきた。
Part 4
たとえば、 村上の初期作品の主人公ぱ彼とほぼ同年輩の男性である。ところが、『海辺のカフカ』(2002)の「ヒーロー」
である主人公は冷酷な父親のもとを逃れる15歳の少年であり彼は最終的に、『源氏物語』の光源氏のように、亡くなった母親に似た人を愛するようになる。
その一方、彼の最新作『lQ84』(2009)は冷血な人殺しである若い女性を主人公にしている。それと同時に村上は徐々に一人称形式から三人称形式に移行してきた。
しかしながら、こうした変化のどれによっても、世界に広がった村上の人気が落ちることはなかった。彼の成功はどのように説明されるだろうか? グローバリゼイションが理由だろうか?確かに私たち相互の結びつきが緊密になるにつれ、テロや腐敗行為や孤独など、私たちを悩ます問題も共通するようになっている。村上を含め多くの作家たちがこうした問題を扱う。しかし彼は最も多様な読者を惹きつけているのだ。彼の読者たちは羊つき、脳の中心への旅、そして邪悪な宗教カルトについての彼の小説を愛読する。国の文化や言語によって調べは若干異なるもしれないが、結果は同じことである。全世界の聴衆が村上春樹の次の歌を首を長くして待っているのだ。